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イノベーター糸井徹がほれ込んだ、和紙繊維の心地よさ

イノベーター糸井徹がほれ込んだ、和紙繊維の心地よさ

KAMITOの製品は、和紙布研究家・糸井徹さんが代表を務めるITOI生活文化研究所の和紙糸から生み出されています。糸井さんは繊維の専門家で、25年以上前から和紙の優れた性質に惹かれ、今なお研究を続けている和紙から糸、そして布を作る第一人者。「和紙にほれ込み、今でもとりつかれています」と微笑みます。

 「最初、和紙に興味をもったのは、その消臭力です。よく革靴に新聞紙を入れて臭いを取りますよね。新聞紙の代わりに和紙の糸くずを入れてみたところ、一晩で嫌な臭いが取れて、10年履いた革靴にもかかわらずもとの革の匂いが戻ってきたのです。これはどういう現象なのだろうと思い、和紙の研究を始めました」

消臭性以外にも、和紙の優れた吸放湿性に驚かされたといいます。

 「同じ天然素材の綿や麻と比べても、和紙は温度40℃/湿度90%の高温多湿の場所に4時間置いておくと空気中の水分をギュッと吸い、その吸湿性は同じ天然素材の綿や麻と比べてもはるかに高いという実験結果が出ました。さらに、20℃/65%の適温適湿のところに移すと、吸った水分を吐き出したのです。和紙が環境に適応するスピードの速さには、とても驚かされました。だからこそ、和紙布で作られた製品は汗をかいてもべとつかず、冷えませんし、蒸れによる不快感が大幅に軽減され、サラッとした着心地が続くのです」

 85歳になった今でもなお現役で、「日々実験」がモットーの糸井さんは、ユニークな実験も行いました。和紙布で作られた靴下を片方だけ履いてお風呂に入り、軽くタオルで水分を拭きとってから寝てみたそう。

 「まったく違和感を感じないまま一晩寝たら、すっかり乾いていたんですよ。このお話をするとみなさん、通気性の高さにびっくりされますが、なかなか試していただけません(笑)。しかし大雨で濡れてしまった時に、和紙布で作られた靴下を履いてみると、よさを実感していただけます。また和紙糸はとても軽く、綿や毛、絹などの約1/3の重さしかないんですよ」

工場であまった和紙糸の切れ端を集めたボール。改めて手触りの良さが実感できます。

 そもそも糸井さんが天然素材に魅了される理由は、人の肌との相性のよさだといいます。

 「技術が発達し、合成製品もパッと見はとてもきれいでよく作られています。しかし、しばらく触っていると、私は『体から早く離して』というサインを合成製品から感じるんですね。一方、自然素材には、いつまでも触っていたくなる心地よさがあります。自然素材に勝るものなし! それが私の考えであり、靴下やTシャツなどの製品化にあたっては、肌にあたる部分は100%和紙であることが理想です。

 ちなみに以前、土に埋めた和紙を4週間後に掘ってみたところ、ほとんどなくなっていましたが、和紙が土に還る速度と、医師から聞いた私たち人間が土に還るのにかかる時間はほとんど変わりません。そんなところにも、和紙と私たち人間との深い繋がりを感じました」

 

糸井さんの研究の結晶〝二重織構造〟

しかし和紙糸から製品を作るには、クリアしなければいけない課題がありました。和紙100%の糸では強度が弱く、軽い衝撃で破れてしまいます。そして、衣類に欠かせない伸縮性が和紙糸にはありませんでした。

撚糸する前のスリット紙。特別な機械によって和紙が1.0〜2.0mm幅にカットされています。

 そこで、糸井さんが試作に試作を重ねて開発したのが、和紙糸とポリエステルの“2重織構造”です。まずは、発想から10年という歳月を費やして、和紙を割いてスリット糸と呼ばれる数ミリ幅にしてから、巻き取らずに直接和紙糸にするプロセスを開発し、工業化への道が大きく開けました。 

そして、和紙糸の短所である強度の弱さを克服するために、糸井さんはポリエステルを芯にして、和紙糸で覆いながら1本の糸にする方法を開発し、特許を取得。和紙そのものには伸度がないため、ポリエステルを覆う際にはピンとはらずに、少し余裕を持たせる技術が糸井さんの特許技術の画期的なところです。

糸の中心がポリエステル、薄く透け感のある繊維が和紙。

「この和紙糸で布を織ると、ポリエステルが内側、和紙が外側になり、肌の接触面は100%、もしくは100%に限りなく近く、和紙糸になります。また、ポリエステルを採用することで、強度の問題も解決しました」

KAMITOは、糸井さんが開発し、特許を取得した和紙糸を使用しテキスタイル・製品化しています。KAMITOが魅了されたのは、吸放湿性や消臭性など、和紙が本来持つ高い機能性だけではありません。原料のサステナビリティにも大いに惹かれました。

和紙布や和紙糸の原料になっているのは、アバカと針葉樹です。アバカは、農薬や肥料を使わず、オーガニック認証を受けた農園で作られています。二酸化炭素の吸収に優れた素材で、焼却時に有害な毒素が出ません。針葉樹は、森林保護を目的とした間伐材と製材した木材から出る廃材を有効利用しています。

 「合成製品ではなく、天然素材である和紙を、極力加工せずにそのままのよさを活かし、生活に取り入れることで、みなさんの健康や地球環境に役立てていただければ、研究者としてこれほど嬉しいことはありません」

糸井徹(ITOITEX

1937生まれ。繊維会社に就職後、欧米の布地文化を2年間に渡って視察・研究。その後イトイテキスタイルを創設。欧米の著名なブランドに日本企業として初めて素材輸出するなどさまざまな経緯を経て、25年前に和紙繊維と出合う。以降特許を取得しながら、和紙繊維をスポーツおよび健康的なライフスタイルに活用すべく、ITOI生活文化研究所を基盤に研究活動を行う。

 

PhotographKoichi Tanoue

TextSakiko Koizumi