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#02 創業113年・内田染工が手がける美しいグラデーション染め

#02 創業113年・内田染工が手がける美しいグラデーション染め

この春登場したKAMITOの新アイテム・グラデーションストール。大判ですが、軽さが特徴の和紙で作られているだけあって、首や肩に巻いても重さを感じさせません。今回は、温かみのあるイエローと爽やかなグリーンの2色をご用意しました。このストールの染めの工程を担ってくださっているのが、東京・文京区にある内田染工場です。社長の内田光治さんに、実際に製品を染めている現場を案内していただきました。

内田染工場は、今年で創業113年目の老舗で、内田さんは三代目。確かな技術力から生まれるクオリティの高さから、有名ブランドにも頼りにされ、トップフィギュアスケーターがオリンピックで着用するウェアを手掛けたこともあります。

訪ねたのは、ストールの染めの日。大判のストールは、色の濃淡が美しいグラデーション染めにしていただくことになりました。

「経験が浅いと染まっているところと染めないところ、染められた中でも色の境目がパキッとわかれてしまいます。いかに自然のグラデーションに染められるかが、職人と腕の見せ所です」と内田さん。

 

まずは、和紙で作られた布を約40℃のお湯に浸し、徐々に温度を上げて布を慣らしたところで、染料を加え染めていきます。布を浸しながら左右に細かく、何度も攪拌することで、色ムラを防いでいるそう。約10分間続けた後、高さを微調整して、また左右に攪拌します。そして、また高さをミリ単位で変えて…という作業を、染料を足しつつ、繰り返すこと約2時間。こうして、ムラのない、美しいグラデーションが生まれるのです。

「うちには機械のメンテナンス専門のスタッフがいて、今回のグラデーション染めで使っている機械も、実はそのスタッフがステンレス板から作ったものなんです。機械化を進めながらも、染まり具合を見極め、高さを微調整するといった作業には、やはり職人の目や培ってきた経験が欠かせません」

 染め上がったストールは、パドル染色機と呼ばれる機械でゆっくり洗って完成。手作業ならではの風合いが素敵です。

内田染工場とKAMITOとは、Tシャツやポーチを染めていただいた3年ほど前からのお付き合い。染めの専門家である内田さんは、和紙の魅力をこう話してくれました。

「和紙は、染めた時に色がブレやすい素材ではあるのですが、そのブレからいろんな表情が生まれる素材だと感じます。一つひとつ異なる味わいを楽しんでもらえるのではないでしょうか」

染め物が生む感動と未来に向けた可能性

明治42年に創業した内田染工場。当時は、工場の前の道には川が流れ、染工場が立ち並んでいたといいます。だんだんと数が減り、今、この地で染工場を続けているのは一軒となりました。三代目の内田光治さんは、大学卒業後に家業を継ぐことに、まったく迷いはなかったそう。

「今、機械でいっぱいの場所がリビングだったり、その2階が自分の部屋だったり。工場の中に生活があったんです。子どもの頃からできることをやり、免許を取れば配達もやってと、ずっと手伝ってきたので、継ぐことは私にとってはとても自然だったのです」

 染めるアイテムのほとんどが靴下だったそうですが、光治さんの代になり、だんだんと洋服を扱うようになりました。内田さん自身も、大のファッション好きです。

「このあたりは製本屋さんが多く、余ったファッション雑誌をよく持ってきてくれて。小学生くらいから、いろんな雑誌を見られたことが洋服が好きになった理由としては、大きいかもしれません。徐々に、憧れのブランドとの仕事もできるようになり、展示会にお邪魔すると、うちで染めた洋服が飾られているんです。それがとても嬉しくてね。自分で注文することもあります」

クライアントからの要望には、全力で応えたい。それが内田さんをはじめ、すべての職人・スタッフの想いです。

「たとえ、お客様の要求が高く、『ちょっと難しいのではないか』と思うことであっても、熱意をもって投げ掛けてくださるので、こちらも何とか形にしようという意欲が湧くんです。染めは、糸から生地になり、裁断・縫製され、販売されるひとつ手前の作業です。なかには、明日、店頭に並ぶ予定の製品を染めることもあるんです。そんな段階で、うちが失敗してしまったら、みなさんのそれまでの努力が水の泡になってしまうわけですよね。そうした緊張感もあるので、職人はみんな真剣そのもの。険しい表情でやってくれています(笑)。最終的に、お客様が染め上がったものに感動してくださると、やり遂げた充実感でいっぱいですし、お客様との間に深いつながりも感じられます」 

内田染工場では、今、ファッション業界の課題でもある大量生産・大量廃棄についても問題意識をもち、サステナブルな取り組みを行っています。

 「古着のチェックシャツを袖と身ごろのパーツごとに分解して、それぞれ染め替え、1枚のシャツに仕立てて販売する、アップサイクルの取り組みを行っています。廃棄されていたかもしれない洋服を、新しい価値をつけて生まれ変わらせることができるのも、染めのもつ力。今後は、この取り組みも事業の柱にしていけたらと考えています」

 

最後に、染めの魅力について尋ねると、とても真剣に、じっくりと時間をかけて考えてくださいました。そして、出してくれた答えが「変化すること」。

「この素材をこう染めたら、あるいはこんなふうに脱色すると、こんな感じになるのかなあと、知識と経験からある程度は想像がつくんです。しかし、想像を超えた変化をすることがあり、ハッとさせられるんですよね。その変化こそが、人の心を動かす力となって感動と共感を呼び、染め物を通じて心と心が通じ合える関係性がお客様との間に生まれていく。そんな深い力が、染めの仕事にはあると思います。

ばっちり色があった時は、心の中でガッツポーズすることもあります。逆に、上手くいかなった時はかなり落ち込みますが、状況を打開するために前向きに対処し、最終的に解決して安堵することも、かけがえのない経験として自分自身を成長させてくれます」

 

 

PhotographKoichi Tanoue

TextSakiko Koizumi