
2022.04.28
#03 フラワーショップ〈VOICE〉が 生花で届ける“心地よさ”
和紙を原料に、着る人が“心地いい”と感じるアイテムを目指すKAMITO。同じように“心地いい”を届ける人を訪ねます。その一回目は、ギャラリーを併設するフラワーショップ「VOICE」へ。洗練された静謐な空間ながら、まるで緊張を強いません。そんな心地よさを作る秘密を伺いました。
花+アートで〝心が整う〟空間作りを
外苑前や表参道から歩くこと10分弱。大通りから小路に入り、街の喧騒から離れた場所にあるフラワーショップ「VOICE」。看板もなく、存在を知っている人でないとおそらく辿り着けない場所です。「お店を目がけて足を運んでほしくて」と話すのはオーナーの香内斉さん。店内は、ガラスを隔てた手前がギャラリースペースで、奥には色とりどりの花が並びます。目指したのは、「心が整う」空間作りです。
「物件の内見でエアコンが2台あるのを見て、花のスペースとお客さんにゆっくり過ごしてもらう空間を分けるイメージがすぐに浮かびました。空間が男性的すぎると、女性のお客様が入りづらさを感じてしまうので、シンプルにしつつ内装に木材を使い、壁の色もピンクが入ったグレーで柔らかさを出しました。それでも、花を買うこと自体に緊張なさる方もいるので、ギャラリースペースでは、ブーケができるまでの間、作品を見ていただいたり、雑誌を読んでいただいたり、お客さんがリラックスできる場になればなと」
コロナ禍前は、お客さんから差し入れをいただくと、お茶を淹れて、共に穏やかないっときを過ごしたりしていました。なかには、悩みを相談して帰って行く方もいるそう。それだけ「VOICE」の空間や香内さんとの時間が心地いい証でしょう。
生産者の声=VOICEを届けていきたい
ギャラリースペースには、アート好きの香内さんが気になる作家の個展を訪れて声を掛け、各地にいる花の生産者の元にも、できる限り足を運びます。
「直接、話すということは大事にしていますね。作家さんと話すと自分と感覚が合うかどうかわかります。生産地に出向けば、生産者さん達の想いや大変さを聞けて、1本1本より丁寧に扱うようになりますし、お客様にも生産者さん達の声を届けたくなります。日本の花って、傷ひとつなく、本当に最高のクオリティなんです。梱包ひとつとっても、すごく丁寧で、愛情をかけて育てられていることが伝わります。
どんな生産者が、どこで、どんなふうに育てて、店に届くまでどんな手間をかけてくださっているのか。これは花屋である僕がストレートにお客様に伝えなければ。そうした気持ちが、VOICEを始めてから、年々高まっています。生産者さんの声をお伝えすると、お客様が生産者さんのファンになってくださるのも嬉しいです」
いろんな人の〝声=VOICE〟が集まる場所にしたい――。それが、香内さんが店名に託した想いなのです。
「自分が好きで作った空間に、花を買いに来る方、ギャラリーを見に来る方と、いろんな方々が集まり、会話ができると楽しいですし、刺激ももらえます。僕は花屋に来たからって、必ずしも花の話をしなくてもいいと思っていて。とにかく気持ちよく過ごして、笑顔で帰ってもらえれば、それでいいんです」
花屋は誰もが好きな花を扱う、幸せな仕事
そもそも、香内さんが花の世界に踏み入れたのは、偶然、近所にできた「farver」という花屋の前を通り掛かったのがきっかけでした。
「見たことのない草花が、屋根もない狭い場所で、生き生きとディスプレイされていて、衝撃を受けたんです。お客として通うようになって1年くらい経ってから、大きい仕事がある時でいいので手伝わせて下さいとお願いしました。それ以前は、インテリアブームで好きになった家具や雑貨の仕事をしていて、さらに前は、インストラクターになるつもりで体育大学に通っていました。紆余曲折あって、今こうして花屋をやっているんですが(笑)。全然飽きませんね。花とは一生付き合っていけそうです」
独立して「VOICE」を始めて2年が過ぎた頃、アパレル業界から転職してきたのが、フローリストhalcaさんです。
「前職は楽しかったので、『VOICE』に出合っていなかったら、働き続けていた可能性もありました。花屋になりたいというよりは、衝動的に突き動かされるものを『VOICE』に感じて、転職したんです。ウェディングのブーケやプロポーズの花束など、お客様の大切な日のお花を選ぶ時は特に緊張しますが、嬉しい報告を聞かせていただけると、フローリストとしてやりがいを感じます」(halcaさん)
「どんな花でも、もらうととにかく嬉しいですよね。誰もが喜んでくれる花を届けられるなんて、本当に幸せでありがたい仕事です」(香内さん)
香内さんは、インテリアの仕事をしていた頃から、花の持つ力には気づいていました。
「空間を整え、最後に花を入れ込むと、一気にフレッシュな空間になって、“完成した”という感じにもなります。ご自宅でも色物の家具を置くのは少し勇気がいりますが、花なら色を取り入れやすいのもいいところ。花は、ドライにして楽しむ方法もありますが、僕は、生きた花の放つ生命力が好きですし、枯れゆく姿にも美しさを感じます」(香内さん)
「生花の過程を楽しんでいただきたいです。ドライは、そうなった瞬間に〝モノ〟になってしまうんですよね。最初の頃は、お花が枯れてしまうのが悲しかったんですが、今では部屋にお花がないことのほうがずっと寂しくて。お花を飾るために部屋もシンプルに、整えるようになり、私にとって居心地のいい空間になっています」(halcaさん)
心地いい空間を演出し、私たちを楽しませてくれる花々。生産者の努力によって長持ちするようになりましたが、必ず最後には枯れてしまうことは、避けられません。
「それは花が、命をまっとうしたということ。だからこそ、命である花を粗末にしないことが花屋として大前提にあります。生産者さんの手で、丁寧に育てられた1本1本をぞんざいに扱うのは、生産者さんにとっても、花にとっても失礼ですから、フラワーロスが出ないように、お店で新鮮な状態で売り切れる分だけ、仕入れるように心掛けています」(香内さん)
働く人を支える機能性の高いKAMITOのTシャツ
halcaさんが入った当初、香内さんには所作について厳しく言われたそう。
「花屋は花という生きたものを扱う仕事です。お寿司屋さんの板場に立つ職人さんが、魚を大切にさばき、無駄のない動きで、お客さんを魅了するように、どれだけ丁寧かつシンプルな動きで花を扱えているかで、店のレベルがわかりますから」(香内さん)
「店に立つ時の服装についても、香内から助言がありました。VOICEに入った頃は、花が引き立つように、自分は着飾らず、汚れてもいい服を着ていたんです。でも、『プロは汚さない。お客様から見られるパフォーマーとして身なりを整えるように』と言われ、考えを改めました」(halcaさん)
そうしたモットーがある二人が、KAMITOのTシャツを着こなしてくださいました。シンプルな黒は、香内さんの個性的なコーディネートにも、halcaさんのシックな装いにも合わせやすく、花の鮮やか色を引き立てます。
「手持ちの服と合わせやすいですね。木からできた和紙が原料だと知って、びっくり。とても軽いですし、肌に触れる面がサラサラしていて気持ちがいいです。(halcaさん)
「花屋で働くことには、寒く、汚れて、手が荒れて…といったネガティブなイメージもあるんですが、せっかくキレイな花を扱うんだから、僕ら自身もオシャレを楽しみたいですし、花屋さんに憧れを持ってもらえたらと思うんです。とはいえ、やはり動き回る仕事で、夏場は汗をたくさんかくので、機能性が高いに越したことはありません。このTシャツの通気性や放湿性が高いのはとても嬉しいですね」(香内さん)
VOICE
東京都渋谷区神宮前3-7-11 JINGUMAE HOUSE 1F
Photograph:Koichi Tanoue
Text:Sakiko Koizumi