
2022.08.01
#05 工場見学vol.2 和紙糸が生地になるまで
石川県で1934年から続く繊維総合会社カジグループ。KAMITOのアイテムに使われる和紙糸を作ってくださるカジナイロンと連携を取り、糸加工から織まで一貫するプロセスを構築するカジレーネは、軽量の織物分野で世界屈指の技術力を誇ります。今回、伺ったのは、中能登市にある、カジレーネを支える協力工場のひとつです。
カジナイロンで作られた和紙糸は、こちらでKAMITOの和紙布となります。和紙糸から布を織る際に大変になるのが、糸が織機に引っ掛かりやすいことにあります。その理由は、糸の断面にあります。多くの糸の断面は丸いのですが、和紙糸は〝扁平糸〟と呼ばれるほど、その断面は複雑な凹凸があるのです。そのおかげで、和紙糸独特の風合いが生まれるのですが、糸から布にする織りの段階では、少々厄介な糸だそう。


「はじめた頃は、糸がバッサリ切れてしまうこともありました」と工場の社長は振り返ります。しかし、父親から工場を継ぎ、この道35年の社長は、さまざまな糸から布を織ってきました。
「やったことのない糸はないかな」。何気なく呟いたひと言に、経験豊富な職人としての誇りが感じられました。「他所でもできる仕事や、糸を見てすぐできそうな仕事は受けないんですよ」。難しいものほど、社長の職人魂を駆り立てるのでしょう。確かな技術によって、数々の難しい糸を布にしてきた社長の経験と腕に頼りたくて、さらに難しい、手間のかかる糸がこちらに持ち込まれてくるのです。カジレーネがこちらに協力を仰ぐのも、確かな技術力への信頼からでした。
「すべては糸を見てから」。KAMITO用の織りも、そこが始まりでした。糸の特性を知り尽くした社長が、和紙糸が切れないように講じた策は、横糸と緯糸が擦れる度合いをできるだけ低くすること。
「織機に仕掛け、緯糸の密度を決める筬(おさ)を特別に作りました。刃を薄くし、刃ごとの間をあけ、空間率を極力あげたんです。刃は長くもしています。そうすることで、引っ掛かりやすい和紙糸も、たるんで逃げやすくなるんです」
職人さんの腕と細かい工夫なしに、KAMITOのアイテムが作られることはないのだと実感することができました。
能登に伝わる織物の伝統を、新しい形で紡いでいく
こちらの工場がある石川県中能登市は、約2000年前、第10代祟神天皇の皇女が、機織りを教えたと伝わる土地です。そして、織られたのが、上質な麻織物である〝能登上布〟。1960年には、石川県無形文化財に指定されました。
「このあたりは、もともと能登上布の原料となる麻の栽培が盛んで、江戸時代には、地元で作った麻を紡いで近江の商人に売っていたんです。でも、麻の栽培が途絶えてしまい、能登上布の原料の多くは中国産に頼っています。機屋さんにしても、人口2万人足らずにもかかわらず、約1100軒が機屋さんをやっていましたが、今では50軒ほどに減りました。この地区では、最盛期は46軒あったのが、今でも機屋を続けているのはうちだけ。産地というのは、作り手がいっぱいいてこそそう呼べるのであって、このままでは産地としての魅力が保てません。能登を織物の街として残していくために、30代、40代、50代の若手を集めてグループを立ち上げました。餅は餅屋。ヨコとの連携を取りながら、仕事をやっていける形ができたらいいなと思っています」

Photograph:Kouhei Yamamoto
Text:Sakiko Koizumi